新築マンションに設置されている最新の設備を建築当時になかったマンションでは、どこまで導入するかは所有者のニーズ・考え方によって異なります。
設備の社会的劣化を少なくするために、長期修繕計画の見直し時期等に話し合い、優先順位を付けて組み入れておくことが、「住みやすい・住んでいて便利なマンション」となり、新たに入居したいという人が増えて希望の持てるマンションに繋がります
そこで、既存の分譲マンションに電気自動車用充電設備等を設置する手順の一例を紹介します。
<背 景>
近年、エネルギー問題、地球温暖化対策の観点からエネルギー効率が良くCO2排出量が少ない電気自動車(EV)やプラグインハイブリット自動車(PHV)が注目されています。2030年には、自動車の50~70%程度はEV車等になるだろうと予測もされています。
EV車はマンションの車庫で充電することで、ガソリンスタンドまで通う必要がなく、ガソリン車に比べて走行距離あたりの費用が安いことや乗り心地が良いというメリットがあげられます。
一方で、一回の充電で走行できる距離がガソリン車に比べて短く、充電も給油に比べて時間がかかることから、マンションで充電できなければ、EVの使い勝手はよくないと言わざるを得ません。
平成22年から指導を開始し、平成27年3月に「マンション等建設条例」を改正して、新築マンションを建設して駐車場を設置する場合、その収容台数の1割以上にEV用充電器を設置するよう事業者に働きかけている区もございます。
また、8月29日に三井住友建設㈱が中央区佃の43階建て、総戸数642戸のマンションでEV車の電源でエレベータを43階まで運転させた実験で、100往復は可能であると推定されました。これにより、災害時における大規模停電時に高層階からの避難や地上からの物資輸送に有効であることが確認されました。
<導入への合意形成>
既存の分譲マンションに電気自動車用の充電設備等を導入するには、ハードルが高く、なかなか合意形成まで至らないケースが多くあります。
マンションには、色々な価値観・家族構成・利用方法が混在していて、建物の維持や設備の社会的劣化に対してどこまで対応するかという判断基準が多様のため、合意形成に課題を含んでいるからです。
「自分は使用しないから必要ない」という考え方は、誰もが使用する可能性のある設備の場合、使用頻度による管理費等の徴収を行っていないマンション管理の世界では、受け入りにくい考え方です。
災害時の停電対策が出来ているマンションは自然と資産価値があがることから、「今以上に良いマンションにするにはどの様にすべきか」という立場で、時間をかけて話し合い合意形成を図ることが大切です。
<充電器の種類>
・普通充電器
100V電源用(充電に21時間程度必要で専用使用向き)と200V電源用(充電に7時間程度必要で共用使用が出来る)があり、壁付けコンセントタイプとスタンドタイプがあります。
200Vの普通充電器を2~3台設置する程度であれば、マンションの共用電力には一般的にある程度の余裕があることが多く、電気容量の見直しを行わなくても設置出来る可能性が高いと思われます。
・急速充電器
3相200Vで20~50kW(キロワット)程度の大きな電力が必要ですが、特別措置(いくつかの条件をクリアする必要有)を利用すれば設置は可能です。80%程度の充電時間は30分位と短時間で出来ますが、普通充電器と比べて費用が高額になります。
<総会開催までに決めておく事項>
充電設備等を導入するために、次の11項目を決める必要があり、適宜アンケートや説明会を実施して、ニーズ・意向を判断して進めることが大切です。
① 導入する充電器の種類(普通・急速充電器)、台数
② 共用か専用使用にするか
③ 費用の負担方法
④ 維持費の負担方法
⑤ 撤去費用の負担方法
⑥ 設置場所
⑦ 電気容量の確認や共用電源の増設
⑧ カーシェアリング導入検討
⑨ 管理規約や使用細則改正の検討
⑩ 駐車場契約書改正の検討
⑪ 総会決議を特別にするか普通にするかの判断
・利用者に課金するパターン
◇電力量単位課金方式→使用した電力量(kWh)単位で課金を行うこと。計量法に基づく検定に合格した計量器で電力量を測定して課金を行う必要があります。
◇充電時間・充電回数単位課金方式→充電時間単位(10分○○円など)や充電回数(1回○○円など)で課金を行うこと。
◇駐車料金上乗せ等方式→月々の駐車料金に一定額を上乗せして課金を行うこと。一定額には、電気料金、メンテナンス費用や清掃費等の管理費用を考慮して決定する必要があります。
◇コンセント使用料方式→駐車料金とは別にコンセント使用料として、電気料金、メンテナンス費用や清掃費等の管理費用を課金すること。
なお、エネルギー源として水素も考えられるので、12年後(メーカーは8年)と言われている充電器交換時期に選択出来るように撤去費用の負担方法も決めておくことをお勧めします。
<補助金について>
平成30年度は、国と都の両方から補助金を受け取ることが出来ましたが、国の手続きは、12月17日までに申請して平成31年2月9日までに報告書を提出しなければならないため、平成31年に同様の補助制度があるのか確認する必要があります。
都の場合は、平成33年1月31日までに設置工事及び実績報告書を提出すれば対象となります。今回は現行の制度で説明させていただきます。
【国と都の両方に申請する場合のフロー】
国(一般社団法人次世代自動車振興センター)に申請→審査→交付決定通知受領→設置工事→報告書提出(国)→審査→補助金確定通知(国)→都(クール・ネット東京)に申請→審査→交付決定・確定通知→請求書(都)送付→支払い
◎センターが承認した価格の半分が国、残りの半分が都から補助されます
◎対象にならない付帯設備(課金機、車止め、監視カメラ等)や工事費用(土地の造成、整地、植栽等)がありますので、確認して進めてください
◎消費税、振込み手数料、手続き費用は対象外です
◎財産の管理・処分は6年です
【指定の申請書類以外に提出する書類(法人格のない管理組合の場合)】
① (国)運転免許証・印鑑証明書・住民票・パスポート・健康保険証・住民基
本台帳のどれか一つ(代表者)
(都)住民票と印鑑証明書(代表者)
② 総会の議事録(代表者選出、導入決議)
③ 建物の全部事項証明書(登記簿謄本)→共同住宅であるための確認
④ 見積書
⑤ 平面図・設置場所・電気系統図・配線ルート図・写真等工事要綱一式
⑥ 充電設備のパンフレット
<参考になるホームページ>
平成30年度 補助対象充電設備型式一覧表(センター承認価格・随時更新)
http://www.cev-pc.or.jp/hojo/juden_pdf/h30/h30_jougen_meigara.pdf
一社)次世代自動車振興センター オンライン申請方法と必要書類
http://www.cev-pc.or.jp/hojo/juden_pdf/h30/h30_juden_sanko1-1.pdf
クール・ネット東京(集合住宅における充電設備等導入促進事業)
https://www.tokyo-co2down.jp/individual/subsidy/mansion-evcharge/index.html