30年以内に首都直下型地震が70%の確率で起きるという予測は知られていますが、管理組合活動で防災に関して備えが進んでいない、話し合いも行われていないところが多いのが現状です。
それは「特に大きな問題は今起こらない」という平穏な生活が延々と続くことを無意識に願って、有事を想定したくないという気持ちと「いつ」がはっきりしないのに予算化できず、先延ばしになっているからです。
【標準管理規約も防災条項を強化】
平成28年3月の標準管理規約の改正では、従前の第32条十三「防災に関する業務」十五「地域コミュニティーにも配慮した居住者間のコミュニティー形成」を削除する一方で、新たに十二「マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」を追加しました。これにより管理組合が近隣のマンションや町内会と共に防災活動に取り組む根拠が明確になりました。そして第27条十一「その他 第32条に定める業務に関する費用」は第32条に定める防災等の業務の実施に要する経費を管理費から支出できること、防災に必要な費用を管理組合予算に計上できることも明らかにしました。
また、理事会決議で復旧や借入れ(第54条1項十・2項、第58条5項)を可能にし、理事長の判断で保存行為(第21条6項、第58条6項)と専有部の立入り(第23条4項)も行えるようになりました。
【マンション標準管理指針の防災対策】
平成17年に国土交通省が作成したマンション標準管理指針の防災対策について、「標準的な対応」と「望ましい対応」を示しました。自分たちのマンションの現在の状態と比べてみてください。
<標準的な対応>
① 防火管理者の選任
② 消防計画の作成及び周知
③ 消防用設備等の点検
④ 災害時の避難場所の周知
⑤ 災害対応マニュアル等の作成・配付
⑥ ハザードマップ等防災・防災対策に関する情報の収集・周知
⑦ 年1回程度定期的な防災訓練の実施
<望ましい対応>
① 災害時に必要となる道具・備品・非常食類の備蓄
② 高齢者等が入居する住戸を記した防災用名簿の作成
③ 災害発生時における居住者の安否確認体制の整備
④ 災害発生時における被害状況・復旧見通しに関する情報の収集・提供体制の整備
【震災初期対応の一例(発災から3日まで)】
災害はメニューを選べません。記録的短時間大雨後、首都直下型地震発生、上流で堤防の決壊、マンションの3階まで浸水する恐れがあるという最悪のシミュレーションも想定した計画から発想しておきましょう。
本部(集会室等)の開設→防災倉庫等から備品の移動
リーダー(総括)以外に必要な8つの役割
① 安否確認→在宅者数の把握、「無事です」シートの活用→集計後は帰宅した人は本部に立ち寄り更新出来るしくみにしておく
② 目視点検→建物・設備の危険個所の立入り制限・使用禁止の周知、防犯巡回
③ 伝言板の設置→在宅数の更新が個々に行えるようなシステム
④ 情報の収集(ラジオ・FM放送、行政・避難所・周辺情報)→正しい情報が二次災害を防ぐ
⑤ 情報を伝える→伝達方法のしくみ(色紙・旗の活用)食料・物資の調達と配付→居住者の帰宅困難者宅の子供への対応等
⑥ 救護・相談→けが人の手当て、持病のある人の通院への相談等
⑦ 衛生→ゴミ置場の管理・ルール作り、ペットの管理等
【事前準備】
① 各戸家具転倒防止の実施
② ガラスの飛散防止の実施(日常の省エネ、防犯、日焼け防止にも役立つ)
③ 在宅避難する方針であることを居住者に伝える
④ 非常食・飲料水 各戸最低3日分準備の周知と本部分の備蓄
⑤ 毎年本部備品購入の実施、リストの作成・公表
⑥ 発災直後から「してはいけないこと」「やるべきこと」の告知を徹底する(例えば、給水・排水の禁止→排水は下から系統別に色水で排水テスト、給水は増圧給水方式の場合下から、高架水槽方式は上から実施後使用する。直後はガス・電気は使用しない等)
⑦ 管理規約の改正(平成28年3月の標準管理規約に準じた改正)
⑧ 災害時名簿の作成
⑨ 管理会社との協議(管理人さんの勤務、一次目視建物点検の実施時期等)
【防災計画が資産価値に影響する】
多くのマンションでは、輪番制で理事が選任され、理事会運営に携わっています。任期は1年、2年とマンションによって異なりますが、どこの理事会でも輪番制の場合、長期修繕計画に基づいてその年度の修繕項目を検討して、管理規約や細則を基に起きる問題に対処しているのが一般的です。
マンションの価値は総合的に評価されますが、立地、築年数といった売買の中心条件の他に長期修繕計画に基づく、建物・設備の更新、社会的劣化への対応と居住者間のコミュニケーションも大きなポイントとなります。最近ではそれにプラスして震災への備えも加えたいと考えます。
コミュニケーション不足による復旧の遅れや訓練不足、無計画による発災時の混乱によっては、評価が下がることもあります。実行可能な計画、準備のために毎年度の予算計上、そして計画に基づく訓練、実施した訓練結果から問題点を解消した新たな計画の立案、そして新計画に基づく訓練という繰り返しにより、実効性の高い防災対策が出来てくると思います。防災計画は長期修繕計画と同等にマンションの価値を左右すると言っても過言ではありません。
また、首都直下型地震で震度6強(立っていることが出来ず、はわないと動けない状況)以上の激しい揺れにより多くの老朽マンションが全壊すると想定されています(国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部予想)。新耐震基準の施行(昭和56年6月)以前の旧耐震マンションは、色々な課題はあると思いますが、命を守るために耐震診断を受けることをお勧めします。
長期修繕計画を5年ごとに見直すように防災計画も訓練終了後毎回見直し・確認できる体制にしましょう。マンション管理の運営は①管理規約・細則②長期修繕計画書③防災計画書の3つを中心に行われることが大切です。
「何もできていない」「組織があっても動かない」というマンションは、自分たちが動かなければ、誰も手を差し伸べてくれないことを認識して、まず初期対応をどの様にするか話し合うことから始めましょう。